【脂質と脂肪酸の教科書】脂質が基礎からしっかり理解できる記事です。
今回は三大栄養素のなかの一つ、脂質についての概要です。
- 脂質はカロリーが高いから控えるべきか?
- MCTオイルはダイエットに効果的?
- オリーブオイルは健康にいい?
これらはネット上でよくみかける脂質についての質問で、僕も実際にこのような質問を受けることがあります。
このような質問に「はい」か「いいえ」で答えることは危険で、僕はそのような解答を避けています。
なぜなら、栄養において「これは健康な栄養素」「これを食べれば痩せる」というような絶対的な栄養素は存在せず、全てはバランスで成り立っているからです。
真に健康を目指すのであれば、栄養素の基礎、概要からしっかりと理解することが必須であり、おそらく多くの栄養士がそう考えていることでしょう。
と、言うわけで今回の記事では結論を設けず、淡々と三大栄養素のなかの一つである脂質について解説していきます。
- ざっくり言えない
目次
三大栄養素ってなに?
先程から脂質を”三大栄養素のなかの一つ”と紹介してきました。
- タンパク質
- 脂質
- 炭水化物
- ビタミン
- ミネラル
これらが五大栄養素として、人間の生命維持に必須な栄養素として知られていますが、この中でも「エネルギーを持つもの」が三大栄養素とされています。
-三大栄養素-
- タンパク質(1gあたり4kcal)
- 脂質(1gあたり9kcal)
- 炭水化物(1gあたり4kcal)
脂質は他の三大栄養素よりもエネルギーが高め
タンパク質、炭水化物が1gあたり4kcalのエネルギーを持つのに対して、脂質は9kcalものエネルギーを持ちます。
車に例えてみましょう。
タンパク質、炭水化物という名のガソリンを入れた場合、リッター4kmしか走れないのに対して、脂質という名のガソリンではリッター9km走ることができる。
と言うことです。
1リットルのガソリンを積んで4km走った場合、タンパク質、炭水化物がガソリンだった場合全て消費されつくされますが、脂質の場合は半分以上ガソリンが残りますよね。
この残ったガソリンが、人間の場合は体脂肪として身体に蓄えられてしまうのです。
もともと飢餓に備えての機能でしたが、食が飽和している現代の日本で体脂肪が蓄積するというのは健康を害す原因となってしまうのです。
ダイエットに効果的の脂質がある?
「バターコーヒー」と検索すると、次々に”ダイエット”という言葉が出てきます。
本来、外来語であるダイエット(diet)は英語で「食事/食事療法」という意味でしたが、日本では「減量」という意味で使われることが多いので、このバターコーヒーにおけるダイエットも「減量」という意味を持っています。
ダイエットに効果的と言われている脂質がいくつか存在します。
- MCTオイル
- グラスフェッドバター(バターコーヒーのやつ)
- DHA、EPAなどが豊富なフィッシュオイル
これらの脂質は1gあたり9kcalという大きなエネルギーを持ちながらも、脂質をエネルギーに変換する回路を活発にさせる効果があるため、ダイエットに効果的と言われているのです。
実際どうなの?
日々運動を行なっていてエネルギーは十分消費しているが、「脂質をエネルギーに変換する回路」が上手に働いていないために体脂肪が蓄積している人の場合であれば、これらの脂質は効果的に働きますが、
そもそも運動を行なっておらずエネルギーを全く消費していない人については、「脂質をエネルギーに変換する回路」をどんなに活性化させても、脂質が燃焼されることはありません。だって脂質をエネルギーに変える必要がそもそもないから。
そういう意味では、上記のような脂質をいくら摂取しても痩せることはない、どころかエネルギー過剰によって太る原因となってしまいます。
上の例みたいに、脂質には「1gあたり9kcalのエネルギー」として以外にも、様々な使い道や効果があるみたいだけど、それらはどうやって決まっているの?
脂質の構造
基本的な脂質の構造は、下の図のようにグリセリンにいくつかの脂肪酸が結合したような状態になっています。
この脂肪酸の種類によって、栄養効果が変わります。
以下では、脂肪酸の分類方法と主な種類について紹介します。
脂肪酸の分類と種類
脂肪酸は主に2つの方法で分類することができます。
脂肪酸を”長さ”で分類した場合
脂肪酸の長さは主に炭素の数で定義することができます。
- 短鎖脂肪酸
- 中鎖脂肪酸
- 長鎖脂肪酸
炭素が6つ未満の脂肪酸
炭素が6-10つの脂肪酸
炭素が11つ以上の脂肪酸
脂肪酸を”形”で分類した場合
脂肪酸同士がどういった形で結合しているのかに注目してみましょう。
- 飽和脂肪酸
- 不飽和脂肪酸
- 一価不飽和脂肪酸
- 多価不飽和脂肪酸
- Omega-3系
- Omega-6系
- Omega-9系
水素が飽和しているため、二重結合を持たない脂肪酸
水素が飽和していないため、二重結合を持つ脂肪酸
二重結合が一つだけ存在している。
二重結合が複数存在している。
最後の二重結合の位置によってさらに細かく分類される。
最後の二重結合が後ろから3番目に存在している。
最後の二重結合が後ろから6番目に存在している。
最後の二重結合が後ろから9番目に存在している。(一価不飽和脂肪酸もここに分類される場合がある)
それぞれの脂肪酸の概要と栄養効果
脂肪酸の種類が分かったところで、早速それぞれの栄養効果を見てみましょう。
短鎖脂肪酸
脂肪酸の長さが短ければ短いほどエネルギーとして利用しやすいという特徴があり、つまり短鎖脂肪酸はエネルギーとして最も利用しやすい脂肪酸です。
人間における主な短鎖脂肪酸は、
- 酢酸
- プロピオン酸
- 酪酸
の主な3種類で、これらは同時に水素が飽和している飽和脂肪酸です。
大腸での消化吸収のためのエネルギー源にされたり、腸内環境を整える働きがあるのが、短鎖脂肪酸独特の特徴です。
食品からは主に乳製品から摂取できますが、腸内細菌が発酵することによって作られるケースもあり、ここで大切になるのがヨーグルトなどでも知られるビフィズス菌などの乳酸菌になります。
中鎖脂肪酸
炭素数が比較的少ない中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸よりもエネルギーとして使いやすいために、”身体に残りにくい”とされています。
しかし冒頭でも紹介したように、そもそもエネルギーを消費していない人が、いくら中鎖脂肪酸を摂取しても消費されません。
この場合はもちろん、脂肪は身体に溜まってしまいます。
ダイエットに効果的として知られているMCTオイルは「Medium Chain Triglycerides」つまり、中鎖脂肪酸という意味を持っています。
”身体に溜まらない”とされていますが、上記で言及したとおりです。
MCTオイルをダイエットに効果的に使う方法は別記事でまとめてありますので、そちらもどうぞ。
中鎖脂肪酸を含む食品は主に
- ココナッツオイル
- パーム油
などです。
長鎖脂肪酸
炭素数が多く長い脂肪酸なので、それだけ分解に時間がかかり、エネルギーとしては利用しにくいとされている脂肪酸です。
主にこれらは
- オリーブ油
- アボカド
- 魚
などに含まれる不飽和脂肪酸で、エネルギーとしては利用しにくいものの、その他に様々な栄養機能を備えている場合がほとんどです。
それらについては、下記の不飽和脂肪酸の概要にて解説します。
飽和脂肪酸
上記の3つは脂肪酸の長さによる分類でしたが、ここからは脂肪酸の形による分類で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸について解説します。
飽和脂肪酸は二重結合を持たない飽和した脂肪酸です。
二重結合は非常に不安定な状態なので、僕がいない飽和脂肪酸は”安定”した存在なんだよ。
安定しているというのは、酸化しにくいということです。
油をあまりにも高い温度で加熱した場合、二重結合の部分から破壊され空気中の酸素によって酸化されてしまいます。
酸化による身体への被害については、以下の記事でどうぞ。
安定した存在である飽和脂肪酸は酸化しにくいため、高温での調理及び保存に強いことがわかります。
しかし、常温で固体である飽和脂肪酸は流動性に欠けます。
この脂肪酸によって血管の細胞膜が構成された場合、血管の柔軟性が失われ血圧が高くなることにより心血管疾患のリスクを高めてしまう可能性があるので、過剰摂取には十分な注意が必要です。
主に肉類に含まれていて、食の欧米化により飽和脂肪酸の摂取量が過剰になりがちですので、十分に注意するべきです。
不飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸は大きく、
- 二重結合が単数の一価不飽和脂肪酸
- 二重結合が複数の多価不飽和脂肪酸
に分類されます。
それぞれ少しづつ性質が違うので分けて解説します。
一価不飽和脂肪酸
二重結合が一つだけなので、多価不飽和脂肪酸よりは安定しています。
高温で調理する場合は、多価不飽和脂肪酸が豊富なサラダ油よりも、一価不飽和脂肪酸が豊富なオリーブ油やゴマ油などを使ったほうが油の酸化を防ぐことができます。
常温で液体。
飽和脂肪酸とは逆で、血中コレステロール値を正常化し心血管疾患のリスクを下げる働きを持っています。
一価不飽和脂肪酸の二重結合の部分が変形しているトランス脂肪酸に注意が必要です。
不飽和脂肪酸ながら常温で固体のこの脂肪酸は、逆に心血管疾患にリスクを高める可能性があります。
主に、マーガリン、ショートニングなどの植物性硬化油(人工トランス)、また反芻動物(牛、羊など)の脂質(天然トランス)に含まれています。
多価不飽和脂肪酸
二重結合が複数あり、非常に脆く酸化しやすい脂肪酸のため、加熱調理や保存には注意が必要です。
その代わり、飽和脂肪酸とは逆に非常に流動性が高く、心血管疾患のリスクを下げる効果が期待できます。
- Omega-6系のリノール酸、γリノレン酸、アラキドン酸
- Omega-3系のDHA、EPA、ALA(αリノレン酸)
これらの脂肪酸は体内で合成することが不可能な必須脂肪酸です。
ビタミンFと呼ばれるほど、ビタミンと似て様々な働きを持ちます。(脂質の代謝活性など)
Omega-6系の脂肪酸はサラダ油や大豆油といった一般的な調理油に含まれるため欠乏することは少ないですが、一方Omega-3系は欠乏することが多い脂肪酸ですので意識して摂取する必要があります。
主に魚に含まれますが、魚を摂取できないヴィーガンなどの菜食主義者はチアシード、フラックスシードといった種子類からALAを摂取する必要があります。
以上が基本的な脂質の概要になります。
決して”良い油”、”悪い脂”と二極化することはできず、どの脂質にもメリットやデメリットが存在します。
基礎からしっかりと理解することで、悪徳な健康、ダイエット食品(笑)に騙されずに済みますので、継続して勉強されることを強くオススメします。
脂質の基礎は以上です。
お疲れ様でした。