【タンパク質とアミノ酸の教科書】ビーガン以外はアミノ酸スコアなんて気にする必要ない。
アミノ酸スコアはタンパク質の品質を示す時に使われる値です。
牛乳はアミノ酸スコア100の完全タンパク質。
では、牛乳を100倍に薄めた水もアミノ酸スコア100なので優れたタンパク源?
大豆は本当にアミノ酸スコアが100?
お米のアミノ酸スコアは78だから、摂取したタンパク質の78%しか吸収されない?
牛乳のタンパク質78g=お米のタンパク質100g?
アミノ酸スコアとう概念は知っているけれども本質からは理解出来ていないって人が多いように感じたので、今回はアミノ酸スコアについて突っ込んで解説していきたいと思います。
- アミノ酸スコアなんて気にする必要ない。(ヴィーガン以外は)
- 必須アミノ酸が多いタンパク質 = 品質の良いタンパク質 = アミノ酸スコアが高い。
- 第一制限アミノ酸が基準を何%満たしているかを示した数値がアミノ酸スコア。
- アミノ酸スコアが低い植物性タンパク質は、第一制限アミノ酸を補う必要がある。
アミノ酸スコアなんてどうでもいい。
自分の身体作りの為に栄養学を勉強されている方へ。
恐らく、アミノ酸スコアについて理解を深める事で、何か自分食生活を改善できないかと考えていらっしゃるかと思います。
あなたの時間を奪わないために始めに言わせてください。
動物性食品の摂取を控えるなどといった特殊な食生活をしていない限り、アミノ酸スコアを気にする必要はありませんので、それについて理解を深める必要はありません。
なぜなら、全ての動物性食品に含まれるタンパク質のアミノ酸スコアは100で、アミノ酸スコアが足りなくなることはありません。
これにより体に害を及ぼす、もしくは筋合成の効率が落ちる、などということは考えられないからです。
この記事の対象は、
- 動物性食品の摂取を控えているヴィーガンやベジタリアンといった方
- アミノ酸スコアを他人に説明しなければならない立場にある方
です。
アミノ酸スコアとは
タンパク質とは20種類のアミノ酸から構成されます。
左に並べているものが必須アミノ酸、右が非必須アミノ酸です。
必須アミノ酸と非必須アミノ酸
栄養素はしばしば必須栄養素と非必須栄養素に分類されますが、アミノ酸も同じです。
必須栄養素
体内で合成することが不可能なので、体外から摂取する必要がある栄養素。
非必須栄養素
必要な材料があれば体内で合成することができる栄養素。不足した場合は体内で作ることができるので、体外から取り入れることが必ずしも必要ではない。
つまり、バリン、ロイシン、イソロイシンなどといった必須アミノ酸は体内で合成することができない為に、食品から摂取する必要があり、それら以外の非必須アミノ酸は体内でC(炭素)、H(水素)、O(酸素)、N(窒素)から合成することが可能、というわけです。
必須アミノ酸が多いタンパク質 = いいタンパク質
「これら20種類のアミノ酸がどのようにタンパク質を構成しているか。」
これによってタンパク質の品質が決定されます。
体内で合成できる非必須アミノ酸はわざわざ摂取する必要がありませんので、もちろん多くの必須アミノ酸によって構成されているタンパク質の方が人体にとっては嬉しいわけです。
必須アミノ酸が多いタンパク質 = 品質の良いタンパク質 = アミノ酸スコアが高い
タンパク質の摂取とは、必要な量の必須アミノ酸を摂取するための手段に過ぎないのです。
アミノ酸スコアの算出方法
上記の数字はアミノ酸評点パターンという人体に必要な必須アミノ酸の基準値です。
わかりにくい場合は、“人間のタンパク質”1gを作るための材料だと思ってもらえれば結構です。(”人間のタンパク質”については後述します)
脱脂粉乳(動物性)のタンパク質を1g摂取した場合に摂取できる必須アミノ酸は以下のようになっています。
8種類全ての必須アミノ酸が基準を満たしている、つまり”人間のタンパク質”1gに必要な材料が全て揃っていますので、人間のタンパク質を1g作り出すことができます。
しかし、アミノ酸スコアが低いと言われているお米のタンパク質を1g摂取した場合はどうでしょうか?
リジンという必須アミノ酸が基準の78%しか満たしていません。
他の材料(必須アミノ酸)がどんなに豊富でも、リジンという材料が必要量の78%しかありませんので、”人間のタンパク質”は1gの78%、0.78gしか作ることができません。
米のタンパク質におけるリジンのように、基準を満たしていない必須アミノ酸で最も量が少ないものを第一制限アミノ酸と呼びます。
そして、この第一制限アミノ酸が基準を何%満たしているかを示した数値がアミノ酸スコアです。
つまり、お米のタンパク質では第一制限アミノ酸であるリジンが基準の78%しか満たしていませんので、アミノ酸スコアは78と算出することが可能です。
“人間のタンパク質”とは
アミノ酸スコアについて解説するために、”人間のタンパク質”という言葉を使いましたが、コレは今回僕が勝手に作り出しました。
人間のタンパク質とは、その名の通り人間の体内で使われるタンパク質のことで、代表的なものを挙げるならばやはり筋肉でしょう。
牛の筋肉と人間の筋肉はタンパク質という意味では同じですが、アミノ酸の構成がやや異なります。
このように、摂取したタンパク質は消化器官を経て分解、吸収され、筋肉や肝臓などで必要な形(タンパク質)へ作り変えられます。
ここで、上記で紹介した材料が揃っていない場合、必要なタンパク質を合成できなくなってしまうのです。
人間の身体に存在しているタンパク質は筋肉(収縮タンパク質)だけではありません。
- 酸素を輸送するヘモグロビン(輸送タンパク質)
- 唾液に含まれデンプンを分解するアミラーゼ(酵素タンパク質)
- 肌などを構成するコラーゲン(構造タンパク質)
- 免疫機能のグロブリン(防御タンパク質)
などなど、人間の身体は約10万種類ものタンパク質によって作られているそうです。
以上、アミノ酸スコアの概要でした。
アミノ酸スコアについてよくある質問
ここからはアミノ酸スコアについて、よくある間違いや質問などについて解説していきます。
牛乳を100倍に薄めた水もアミノ酸スコア100なので優れたタンパク源?
アミノ酸スコアはタンパク質について考えられているものです。
「牛乳を100倍に薄めた水もアミノ酸スコア100」というよりは、「牛乳を100倍に薄めた水に含まれるタンパク質もアミノ酸スコア100」と行ったほうが理解しやすいかもしれません。
どんなに薄めてもタンパク質の構成は変わりませんのでアミノ酸スコアは100ですが、薄まっている分タンパク質の含有量は少なくなります。
「牛乳を100倍に薄めた水もアミノ酸スコア100」ですが、「=優れたタンパク源」というわけではありません。
大豆は本当にアミノ酸スコアが100?
自分で用意した質問ではありますが、これは回答がやや難しいです。
ボディビルダーとして有名な山本義徳氏が著書で、アミノ酸評点パターンが年々緩くなっていることに対して政治的な意図があるとしか思えない、ということを言及しています。
改正された(緩くなった)アミノ酸評点パターンと比較した場合、大豆のアミノ酸スコアは100ですが、豆類である以上メチオニンの含有量は比較的少なくなっています。
ヴィーガンなどでタンパク質の摂取が豆類に偏る場合、メチオニンの摂取量が少なるなることに対策を講じたほうが懸命でしょう。
お米のアミノ酸スコアは78だから、摂取したタンパク質の78%しか吸収されない?
アミノ酸スコアは吸収率を示すものではなく、利用率を示したものです。
消化器官でアミノ酸まで分解された後、吸収され、肝臓や筋肉まで運ばれます。
ここでリジンの含有量が78%しかないお米のタンパク質は、78%しか上手に利用されません。
しかし、他の食品からもタンパク質を摂取していて、足りない22%のリジンを補うことができたならば摂取したタンパク質を100%利用することが可能です。
残りの22%のタンパク質はどこへ行くの?
お米のタンパク質のみを摂取し78%しか利用されなかった場合、残りの22%はどうなるのでしょうか。
タンパク質を”人間のタンパク質”として利用しない場合、「脱アミノ」という処理が行われます。
タンパク質がタンパク質であるためには、N(窒素)という分子が必須ですが、これが抜き取られるのが脱アミノです。(タンパク質はCHONで構成されるのに対し、その他の3大栄養素はCHOで構成される)
Nというアイデンティティが抜き取られたタンパク質は、その後糖質、もしくは脂質などと同じ代謝を経てATPを産み出すエネルギー産生経路に入るのです。
タンパク質1g=4kcal の熱量を産み出します。
アミノ酸スコアが低いタンパク質を摂取し続けた場合、人体に害があるの?
牛乳のタンパク質を78g摂取した場合と、お米のタンパク質(アミノ酸スコア78)を100g摂取した場合、体内で利用できるタンパク質の量は同じです。
ってことは、アミノ酸スコアが低いタンパク質でも多く摂取すればいいだけなのでは?と思われるでしょう。
しかし、ここで問題になるのが脱アミノです。
脱アミノは肝臓で行われ、摘出したN(窒素)は腎臓を通って尿として排出されます。
この脱アミノの処理が多くなればなるほど、肝臓や腎臓といった臓器が疲弊しますので、アミノ酸スコアが低いタンパク質を摂取し続けることは将来的にこれらの臓器に疾患を抱えるリスクを高めてしまいます。
BCAAは3種類の必須アミノ酸しか含まれないのでアミノ酸スコア0?筋肉を合成できない?
BCAAはバリン、ロイシン、イソロイシンの3つの必須アミノ酸を配合したサプリメントで、多くのものがソレ以外の必須アミノ酸を含有していません。
また、EAAという必須アミノ酸を配合したサプリメントがありますが、多くのEAAサプリメントがトリプトファンという鎮静作用が強い必須アミノ酸を含有していません。
この場合、全ての必須アミノ酸を含んでいないのでアミノ酸スコアは0であると言えるでしょう。
つまり、これらのサプリメントだけでは筋肉を合成することができないのです。
BCAAの記事でも解説していますが、BCAAサプリメントは摂取することにより血中のBCAA濃度を急激に高めることが目的で、これらのアミノ酸を筋肉として合成することが目的ではありません。
血中のアミノ酸濃度が急激に向上することによって、それぞれのアミノ酸特有の効果を発揮します。(ロイシンであれば筋合成の活性化など)
これがBCAAサプリメントを摂取する意義ですので、これらのサプリメントにタンパク質合成効率を示すアミノ酸スコアを求めるのがそもそも間違っているのです。
トリプトファンを含まないEAAサプリメントには諸説あります。
他の食品からのタンパク質摂取分でトリプトファンの不足分は補われるため問題ないという説から、トリプトファンを含まないEAAが多いようです。
しかし、EAAをトレーニング後に摂取する場合はトリプトファンの鎮静作用は問題ありませんのでトリプトファン含有のものがおすすめです。
参考リンク
アミノ酸評点パターン:A.Horper. 1981. AMINO ACID SCORING PATTERNS.
各タンパク質のアミノ酸組成:文部科学省. 2007. 五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表.
僕はヴィーガンで、アミノ酸スコアが低い植物性タンパク質しか摂取できません。
ソイプロテインを飲む時は別途メチオニンカプセルを飲み、グルテン(穀物由来のタンパク質)を多く含むセイタンという食品を食べる時はリジンカプセルを飲む、など工夫しています。
しかし、動物性食品を摂取する一般的な食生活では、必須アミノ酸が欠乏することは考えづらいので、アミノ酸スコアについてはあまり考察する必要はないのではないかと、常日頃思っています。(ここまで読んでもらって大変申し訳無いですが。笑)
なにか、参考になる情報があったならば幸いです。